東奔西登

車中泊で日本縦断の旅をしながら、ロクスノ081号の「全国ボルダー『1級&初段』100 課題」にトライした人の記録

2019/12/11~15 霜降山ボルダー スーパーカンテ

2019/12/11

早朝に下関の唐戸市場を出て、宇部市に向かう。

霜降山ボルダーは昨年のGWに一度訪れた事があり、その時は下見だけで一つもボルダーを登らなかった。

 

霜降山ボルダーのアプローチはアスファルト舗装の坂道を歩いて約20~25分と長く、とにかく暑かった記憶がある。

 

その経験もあり、この日はレストがてらの荷揚げと割り切り、マット2枚とサブ一枚を目標の課題である「スーパーカンテ」のある岩まで持っていき、ルーフ状の岩の下に一枚だけ残置。

 

誰も来ないとは思うが、サブマットは寝る時に使うし、結局マウンテンダックスの一枚だけを残して車まで持って帰った。

この日は宇部市内のカッタの湯で寝た。

 

2019/12/12

この日からトライ開始。

といっても、霜降山ボルダー自体がマイナーなのと、その中でもスーパーカンテは高さもあって不人気な為か、リップ?カンテ?なんとも言えない傾斜のホールド部に積もったチリや砂、微小な苔などを掃除して、マットの位置をずらしながら少しづつムーブを作っていく。

 

霜降山は花崗岩なのだが、ここの岩は粒子が荒く指皮に悪い。

おかげで岩の隙間を抜けるアプローチでダウンパーカに穴を開けてしまった。

 

スーパーカンテのある岩は風が通らないので快適。

この日はフリクションも良かった。

 

2019/12/13

前日の掃除&トライで手ごたえがあったので、休みたいところだったが一日でも早い完登欲が出てしまい、トライを重ねる。

 

一度、リップのガバを捉えられそうなトライでトーフックが外れてしまい、最高高度からの落下。

 

手、足の両方から同時に着地という猫のような体制でマットの上に。

下地が斜めのせいで顔をマットにしたたかに打ちつけた。

 

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残像だ!

マットの下は岩盤なので、もし、マットがなかったらと思うとゾッとする。

この日はヨレと恐怖もあり、これ以上の高度には達せず。

 

「下地の悪い岩を、独りで十分がんばった」と敗退ムード。

 

カッタの湯で指皮の状態の悪さに絶望。

カッタの湯は食事&入浴で1000円セットがおすすめ。

この日もここをキャンプ地とした。

 

2019/12/14

レスト日。

どこでどう過ごしたか…

たしか公園で朝の時間をつぶし、ダイソーで車内の整理グッズを買い、宇部の図書館でwifiと電源を借りた。

電源を貸してくれる図書館は希少なので、宇部市は優しい。

 

この日はどこで寝たかも覚えてない。

 

2019/12/15

次の予定である戸河内ボルダーの天気に雪予報が出ていたので、この日をラストと決めてスーパーカンテまでアプローチ。

このアプローチ、いったい何回登ったであろうか…

 

前の二日のトライの時も、昼食時や長めのレストを入れる時は車に戻っていた。

道中の三度越えるゲートももうお馴染み。

アプローチが近ければもう少し人気の岩場になるのであろうが。

 

それ以外は、展望岩からの眺めも良く冬も暖かい。良い岩場。

 

この日は半袖で快適なくらい暑く、フリクションはこれまでで最悪。

「ツキにも見放されたか」と落胆。

夕方からの勝負と決め、午後3時くらいに岩の前に。

 

それでも気温は20℃はありそうだった。

少しアップしてトライしてみるも、中間部へも行けない状態。

「これはダメかもな…」と半ば諦め気味で日没間際まで待ってみるも、スーパーカンテのある岩は西向きで、西日がモロに当たる。

 

日差しも強く木漏れ日が無情にもスタンスを見えなくさせる。

 

日没までの時間もなく、もう数トライしかない状況のトライで、リップ付近でフォール。

原因はわかっていて、前回のフォールの恐怖から意図的にトーフックを外し、両足で落ちられる体制を作ったことによる保持の低下。

 

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この選択が良く(本能的に安全な体制を作るのは間違っていない)もあり悪くもあり、フォール時に後ろの木にぶつかってからマットに着地。

 

尻を立ち木にしたたかに打ち付けた。

(この後、三日間は痛かった)

 

このトライで三度目の心折れ。

「もう辞めよう」

と思ったが、ここは本州の西の端。

次はいつ来られるかもわからない。

 

日没直後、まだ残光の残る時間であればティックを入れたスタンスは見える。

 

焦る気持ちを抑え、展望岩の上から宇部市街地の奥の海に沈む日を眺め、岩の前に戻ってバッグにぶら下げたプロトレックの外気温計を見る。

 

11.9℃。

 

フリクションは依然悪いまま。

 

ヘルメット代用のないよりましなニット帽を被り、本当にラストと決めてトライを開始する。

 

「スーパーカンテ」のリップともカンテともつかない傾斜のホールドを握り、レイバックの体制で離陸。

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スーパーカンテを裏側から見たところ。これは「リッテ」としか言えない


遠目の一手目を抑えて右足を上げトーフック体制に。

 

その後もホールドをクロス、マッチと変えながらもトーフックは掛けたままズリズリと高度を上げる。

 

手はいつでもすっぽ抜けそうだけど、トーフックは意識して掛ければ良く効くし、体重を逃せられる。

その反面、手がすっぽ抜けたら横向きの姿勢で落下するのは明白。

 

独りでトライしたため、マットの位置は固定だし、メイン二枚もトラバース課題なので分散して配置。

 

下手な落ち方はできない。

 

前の二回の高所からの落下が頭を過るが、このラストトライを逃したらもうチャンスはない。

 

手はひたすらにカンテを抑え、トーフックを掛けつつもいつでも意図的に外せるバランスで登る。

 

前回、捉えつつも掛かりが悪くて落ちたリップへの一手が成功し、その後は落ち方をまったく気にしていないくらい自然に体が真横になるクロスムーブでのガバ取りに成功し、マントル体制へ。

 

このマントルも簡単ではなく、傾斜のなだらかなリップにフリクションだけのヒールフックを掛け、右手は粒子を抑え、左手はプッシュ。

 

咆哮というには情けないくらいの悲鳴のような叫び声をあげ、腹ばいになってカッコ悪いマントルを返した。

 

 「やってやった」

 

という言葉しかなかった。

久しぶりに「登れた」ではなく「登った!」という課題。

 

アプローチの荷揚げからムーブ作り。

下地が悪く高いボルダーを果敢にトライした。

 

焦る気持ちを抑え日没まで待った。

知らない土地で独り四日も過ごした。

 

この課題は、生涯で間違いなく記憶に残る一本となると思う。

 

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木漏れ日とのコントラストが美しい「スーパーカンテ」

 

この時は気温の高さ、スタンスの見えなさに絶望していた。

今見ると美しいと感じる。

 

現金なものだ。